A:専制の女王蜂 クイーンホーク
この大陸には、タランチュラホークって殺人蜂がいる。奴らは群れが大きくなると、新たな女王を育て、半数を率いて旅立たせ勢力を広げるんだ。船乗りから聞いた話じゃ、外つ国にも広まってるそうじゃねェか。そんな繁殖力の強い殺人蜂がこれ以上、増えねェように、もし「女王蜂(クイーンホーク)」を見たら、率先して狩ってくれ。ただし、挑むときは注意しろよ?
なんせ奴は、あらゆる生き物を操るフェロモンを放つ……人だって例外じゃねェんだからな。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
毒蜂はアーテリスの各地にいる。ダンジョンの中に巣を作って住み着いている小型のものも居るし、中には既にリスキーモブに指定されているものも居る。大陸の未踏のエリアにはまだ見ぬ種類の蜂もいるかもしれない。それほどまでに種類が豊富な上、なんせ数が多い。行商人や旅人の死因のうち最も多いのが蜂の襲撃によるものだ。そういう毒蜂の中でもとりわけ危険とされているのがその体がメートルを超えるような巨大蜂だ。こいつらは身体が巨大なくせに動きが小さい蜂同様に素早く、尚且つ武器とする針は体の大きさに比例して大きく太い。毒の在る無しに関わらず、その針で刺されるのはナイフや槍で突き刺されるのと同じことなので非常に危険だ。また毒を持っている個体について言えばその毒の効果も使用方法も種々様々でオーソドックスに針先から注入する者の他にも、噴霧して吸わせて自由を奪うものから、毒液で防具や獲物の体を熔解させるものまでいる。そして学術上それら巨大蜂の原種と言われているのがこのタランチュラホークなのだという。
タランチュラホークは雄の働き蜂でもその体長が1.5mほど、昆虫特有の堅い外殻を持ち並みの武器はダメージを通さない。6本ある棘が付いて節ばった手足は見かけからは想像できない程の怪力で、捕まったら逃れることは難しい。また毒こそ持たないが、その巨大な針で獲物を仕留め、強靭な顎で獲物を噛み砕き、肉団子にして巣に運ぶ。そして女王が産んだ数え切れないほどの卵から産まれた幼虫が次々と成虫になり、群れが大きくなると新たな女王を育て、半数を率いて旅立たせその勢力を拡大していく。
その「クィーンホーク」と呼ばれる女王蜂は放っておくと新たな巣を作り、強い繁殖力でどんどん数を増やしていってしまうので、冒険者が旅立つ時などには見かけたら積極的に仕留めるよう言い含まされる。
とはいえ、女王蜂は働き蜂の2倍ほども体長があり、武器となる針も2本ついていて、性質も凶暴だ。それにタランチュラホークの女王蜂は毒こそ持っていないが、その「毒」の源流となったと言われているフェロモンを噴霧する。このフェロモンは動物は勿論人間にも作用し、吸い込むと女王蜂の意のままに操られてしまう。こうやって冷静に語っているが、かくいうあたしも絶賛操られ中だ。
何を隠そう、油断して吸い込んじゃったのだ。これがなかなか強烈で、自分の意識としてはご覧の通り比較的はっきり事実認識できているのに、体が言うことをきかない。あたしは自分の体が相方を攻撃しようとするのを止められずにいる。もっとも、所詮昆虫である女王蜂には魔法という概念が理解できない為、杖でポコポコ相方を叩いているに留まっているのが不幸中の幸いだ。
「ふふ、リスキーモブなんて言っても虫は虫よね。黒魔導士のダイレクトアタックの脆弱さを舐めてもらっては困るわ」
「威張っていうこと?それにその杖の尖ったとこ、結構痛い」
相方が半べそをかいて言った。
「ほらほら、無駄口叩いてないであいつ早く倒しちゃって!あたしを解放して!」
あたしの杖でのポカポカ攻撃を捌きながら相方が少し考えているようだった。
「そっか。気絶させちゃえばええんやん」
不敵に笑った。
「え?」
「なんか邪魔臭いし」
正直に言おう。あたしは痛いのが嫌いだ。
「…え?必要ないでしょ?必要ないよね?」
あたしは近年まれにみる相方の楽しそうな顔にゾッとした。
「意地悪はやめようよ~、ねぇ」
今度はあたしが半べそをかく番だった。あたしは相方を杖で殴りながらブンブン首を振った。
「魔法を使えない魔道士なんて陸に上がった亀よね」
違う。それを言うなら河童やん。
それを口に出す前に鳩尾に鋭い衝撃を受けてあたしは意識を失った。